読了:橋本哲児『顧客の「本音」が分かる9つの質問』(秀和システム、2015年〔初版:2014年〕)
橋本哲児『顧客の「本音」が分かる9つの質問』(秀和システム、2015年〔初版:2014年〕)を読了した。タイトル通り、顧客の「本音」を引き出すための著者独自の「9つの質問」について順を追って解説していく内容となっている。本書は著者の過去の失敗経験談から始まり、自然と読者を惹き込んでゆく。
1.「9つの質問」
顧客の本当の要求、「本音」を引き出すための9つの質問は以下の通りであるという*1。
①現状把握
→フラットに強み・弱みを探り出す最も重要な質問。
(ex)〇〇(商品名)にご満足いただけましたか?また(ご満足・ご不満)の理由はどのようなものですか?
②強み把握
→マイナスイメージ(不満)をもつ顧客にも伝わる強みを探り出す。
(ex)最もご満足いただいた点は何ですか?またその理由はどのようなものですか?
③弱み把握
→プラスイメージ(満足感)をもつ顧客も感じる弱みを探り出す。
(ex)最もご不満だった点は何ですか?またその理由はどのようなものですか?
④不満把握
→顧客を感情移入させる最大の不満を探る。「カテゴリー」への不満。
(ex)◎◎(商品のカテゴリー)について、特にあなたがお悩みだったことはありますか?
⑤購入理由
→買う理由と満足した理由に一貫性を探る質問。
(ex)〇〇を買った一番の理由は何ですか?その理由について、教えてください。
⑥競合把握
→真の競合と障害を発見するための質問。
(ex)〇〇を買った時に他の▲▲(同一カテゴリーの商品)も検討されましたか?よろしければ商品名などを教えてください。また、その理由は何ですか?
⑦隠れた競合把握
→隠れた競合と障害を把握し、さらに有利に戦うための質問。
(ex)〇〇を買った時に他の■■(別カテゴリーの商品)も検討されましたか?よろしければ商品名などを教えてください。また、その理由は何ですか?
⑧顧客接点
→企業や商品などの情報と顧客が接する点を探る。
(ex)〇〇をどこでお知りになりましたか?
⑨満足度把握
→既存客の購入率、リピート率、紹介率を高めるための質問。
(ex)あなたの知人や友人に〇〇を薦める可能性はどのくらいですか?10点(ぜひ薦めたい)から0点(絶対薦めない)の間で点をつけてください。
この中でも、とりわけ印象に残った④不満把握、⑤購入理由、⑧顧客接点について詳しく述べていきたいと思う。
2.「不満把握」
上記①~③の質問でも既に顧客が感じる不満は探り得るのだが、より広い視点で見た時に有効であるのがこの「不満把握」の質問である。
「◎◎(商品のカテゴリー)について、特にあなたがお悩みだったことはありますか?」
この質問に対する回答例は以下の通りである。
「長く使いたいと思っていたので飽きのこないデザインのものが欲しいと思っていました。私は飽き性なので。」
この質問は顧客の問題のリアル感を把握し得るものであり、また顧客がどのような言葉(文章)でその問題を表現しているのかを把握しなくてはならないものである。そしてその問題を、出来得る限り、商品の最高の強みで解決していく。顧客の最大の悩みは、商品の最大の強みになり得るものであると言える。
もちろんどれだけ優れた商品にも弱みはあるのだから、すべての悩みに対応しなければならないということではない。また、競合商品、競合他社がもつ強みの土俵で戦ってはいけない。飽くまでも、自社商品が発揮し得る強みを以てして顧客の不満に対応していくことが重要である。
3.「購入理由」
顧客がとある商品を「買う理由」と、それに「満足した理由」は別物である。前者は飽くまで顧客が買う瞬間に抱いた感情であり、後者は購入後、実際に使用しての感想である。今やインターネットで検索をかければ様々な商品レビューが見られる時代であるが、それらはどれも「購入後(使用後)の感想」であり買う瞬間の感情を探り出すことは難しい。だからこそ、この「購入理由」の質問が重要となる。
「〇〇を買った一番の理由は何ですか?その理由について、教えてください。」
この質問に対する回答例は以下の通りである。
「実物を見る場所がなかったので、不安でしたが、HPに載っていた商品の写真がかっこ良かったので。」
顧客がその商品を「買った理由(購入理由)」を把握することは非常に有効であり、それらを商品の広告、サイト、コピー、営業等と照らし合わせていくことができる。そして
、買った理由と満足した理由が一貫性を持つ、ないしは持たせることで好循環が生まれることになる。重要なのは「強み」の一貫性である。
4.「顧客接点」
著者が本書で最も強く主張していると思われるのがこの「顧客接点」である。読んで字の如く、顧客接点とは買う前の顧客が商品と接する点のことであり、例えばそれは広告、パンフレット、紹介など様々である。顧客が商品のことを知る場所と言える。
「〇〇をどこでお知りになりましたか?」
この質問に対する回答例は以下の通りである。
「ネットで探していたら、たまたま広告を見かけて。」
「会社の同僚から紹介されて知りました。」
この質問で重要なのは、「選択式ではなくフリーで回答してもらうこと」、「可能であれば理由も確認すること」である。企業側が選択肢を用意してしまっては顧客の本当の感情を狭めてしまうことになるため、その回答は事実とは言えないものになってしまう可能性がある。
可能であれば理由を確認する、というのは、顧客がその商品を知ったことが「偶然」であるかどうか、ということである。「偶然」、「ほとんどの顧客に接触されない」といった「顧客接点」は有望とは言えないためである。
5.おわりに
丁寧な解説と共に要所要所にまとめが組み込まれており、復習する上でも非常に役に立つ本なのではないか、と感じた。著者独自の考えながら、いろいろと納得させられる点が多かったように思う。
とりわけ、「顧客接点」を探る質問に関しては非常に興味深いものがあった。普段自分がアンケートに答える際、必ずといっていいほど「〇〇をどこでお知りになりましたか?」といった質問は目にする。しかし、それは大概選択肢が用意されている。ぱっと選択することも可能なのだが、選択肢が多い場合には自分が知った場を探り出すのが困難であることもままある。
著者は、選択肢を用意したことで大抵の顧客が1番最初の選択肢を(理由なく、何気なく)選んだ例があったことに言及する。選択肢を用意することは、顧客の手間を省くものでもあるが事実を得られない可能性は出てくるかもしれない。回答方式をフリーにするか選択肢を用意するかは、その時々によって慎重に考えなければならないであろう。