読了:上田拓治『マーケティングリサーチの論理と技法〔第4版〕』(日本評論社、2016年〔初版:1999年〕)
上田拓治『マーケティングリサーチの論理と技法〔第4版〕』(日本評論社、2016年〔初版:1999年〕)を読了した。
マーケティングリサーチについての知識が網羅されており、非常に情報量の多い本であった。今までこの分野を勉強したことはなく、専門用語も多く出て来たため勉強になる反面理解に時間がかかる場面も多かった。以下、とりわけ気になった点を取り上げたいと思う。
1.マーケティングリサーチの新しい波
「マーケティングリサーチ」という分野において、近年の調査状況の変化は以下の通りである。
①生活者サイドの変化
・他記式→自記式・・・誰にも束縛されず自由に自分の意見を述べたいという欲求
・セールス等、訪問調査・・・調査への拒否や不在の増加
・インターネット利用者の増加・・・インターネット(Web)調査における良好な環境
②クライアント・サイドの変化
競争の激化・・・意思決定の迅速化、調査コストの低下を求められる
→「早い、安い」を最大の特徴とするインターネット調査に合致
③調査会社サイドの変化
・企業間競争の激化・・・定性調査の活用
・ICT技術の進化・・・自由回答やチャート、レポート等の自動処理が可能に
これら3つに共通して言えるのは、インターネット調査が多く活用されるようになっているということである。それは単にインターネットの進化や利用者増加のみを理由とするのではなく、「迅速」「低コスト」といったメリットを孕んでいる。
ここで、「①生活者サイドの変化」における「自記式」に注目したい。
2.自由回答質問
筆者は、自由回答質問について以下の長所・短所を挙げている。
【長所】
①特定のテーマに関する多種多様な回答
②調査対象者の生の声
③想定外の意見を得られることがある
④回答量が多い→プリコード回答よりも深い分析が可能
⑤調査対象者が本当に表現したい回答が得られる
→プリコード回答においては、自分の意見に近いと思われる回答カテゴリを選択するだけ
⑥プリコード回答欄を用意する時間・情報が無い時の次策
【短所】
①プローピング質問の方式により回答の質と量が変化
②回答量について個人差が大きい
→回答量の多い人に調査結果が偏る
③留置き調査では回答を作文するため表現が理路整然となりやすい
→本音から遠ざかる可能性
④プリコード回答に比べ時間がかかる
⑤留置き調査では記入欄が狭いと回答量が限られてしまう
⑥留置き調査では回答をなるべく短く書こうとする人が存在する
⑦電話調査では会話のスピードが速い
→正しく記録できない可能性
⑧自由回答のアフター・コーディング作業には時間がかかる
⑨アフター・コーディング作業でのコーディング・ミス
先月読了した橋本哲児『顧客の「本音」が分かる9つの質問』(秀和システム、2015年〔初版:2014年〕)においても指摘されていたことだが、プリコード回答にはデメリットが存在する。
上田にしろ橋本にしろ、両者が指摘しているのはプリコード回答においては「回答者の自由度が下がる(本当に表現したいことが限られてしまう)」という点である。その一方で、自由回答方式のメリットはやはりプリコード回答よりも自由な表現ができ、深い分析が可能ということである。
しかし今回本書を読んだことで、自由回答方式にもある程度のデメリットが存在することを学んだ。自由度が高いだけに、回答者側の時間が多く取られ回答を短くしようとする、文章化を意識して本音が隠れていまうといったリスクはある。また、アフター・コーディングにも時間がかかってしまう。
プリコード回答、自由回答の両者ともにメリット・デメリットは存在するが、そのバランスを考えて調査に当たるべきであると強く感じた。とりわけ、「回答者の本音を探りたい」という場合には自由回答方式において質問形式に気を付けつつ調査を行うのが良いのではないかと考える。
3.インターネット調査
「紙とペン」調査の限界
前述のように、インターネットが普及し始めると従来の「紙とペン」型の調査は限界を迎えるようになった。インターネットの使用とそれを介したコミュニケーションが拡大すると、インターネットが広告媒体の1つとして考えられるようになる。
1996年にインターネット調査が始まったが、当初の主流はオープン型であった。その後多様なニーズに対応するため、インターネット調査はオープン型からクローズ型へとシフトし、現在に至る。
インターネット調査は「迅速性」、「安価性」においては優れた手法として認知されてきた反面、従来型調査が目指した「標本の代表性」、「データの品質」に関わる領域については批判が生まれるようになった。
インターネット調査の将来展望
日本のインターネット調査の売上シェアは世界の4位に位置しており、安定期に入りつつあると言える。Web調査に関しては、「公募型」と「確率型」を調査テーマや機会によって使い分けることが最善であると考えられる。しかし、安定した回収率を確保するために確率型Web調査の長所をクライアントに充分理解してもらうことが大切である。
また、動画を提示して質問する方式はインターネット調査において非常に大きな利点であり、今後その利用度は一段と高まっていくものと思われる。
これまでインターネット調査は定量調査が主とされてきたが、最近は定性調査のニーズが高まってきている。これはクライアントが生の声を真に導き出す要因を望んでいるものと思われてる。
また、携帯電話(スマートフォン)を利用したいわゆるモバイル・リサーチはユビキタス社会での必須の情報収集ツールである。その特徴は、いつでもどこでもリアルタイムで情報収集し送受信できる。デメリットとしては、長文の入力に向かないこと、質問数・回答欄の選択肢の限界、画面の大きさ等様々な制約がある。また、キャリアごとに規格が異なるため時間とコストがかかる。
しかし、モバイル・リサーチはPC離れをした若者への調査としては欠かせず、GPS機能の活用など携帯電話ならではのメリットがある。モバイル・リサーチにはまだデータ品質や代表性の問題等残された課題は多いが、今後の新しい調査モードとして期待は大きい。
4.おわりに
マーケティングリサーチについて最新の情報が網羅された本であった。とりわけ、インターネット(Web)調査についての動向がよく勉強できた。しかし、前述の通り情報量が非常に多くなかなか理解が難しかった。マーケティングリサーチについては、これからの活用法を見極めつつより深い勉強を心がけたい。