読了:照井伸彦・佐藤忠彦『現代マーケティング・リサーチ―市場を読み解くデータ分析』(有斐閣、2013年)

照井伸彦・佐藤忠彦『現代マーケティング・リサーチ―市場を読み解くデータ分析』(有斐閣、2013年)を読了した。先月読了した上田拓治『マーケティングリサーチの論理と技法〔第4版〕』(日本評論社、2016年〔初版:1999年〕)はマーケティングリサーチのなんたるかを満遍なく示した内容であったが、今回読んだ本書は現代のマーケティングリサーチがいかなるものであるか、その技法について詳細に述べた内容となっている。

 

本書では、フリーの統計分析ソフト「R」を元に、「Rコマンダー」(Rの基本的な統計関数をより使いやすくするためのGUI)*1を利用して実際に本書の論理がどのようなものであるか、逐一実践しながら追っていくことができる。また、要所要所にコラムが挟まれており興味深い内容となっている。

 

以下、中でもとりわけ気になった点について述べてゆく。

 

マーケティング・リサーチの現代的役割*2

(1)マス・マーケティング:すべての消費者に一様にアプローチする

(2)セグメンテーション・マーケティング:年齢や性別、地域等のデモグラフィック情報を用いて消費者を複数のセグメントに分類して、別々にアプローチする

(3)個別対応マーケティング:1人ひとりの消費者に対して個別にアプローチする*3

 

 以上がマーケティングの変遷であるが、現代の市場取引は顧客と商品の大量のデータが自動的かつ瞬時に収集可能な環境にある。この情報からマネジメントに有用な知識を抽出し、消費者1人ひとりにアプローチすることが求められている。つまり、現代のマーケティングにおいては平均的消費者や大雑把なセグメンテーションを突き詰め、顧客ごとの嗜好や購買行動を個別に理解することが重要となっている。

 

また、日本や欧米など成熟した市場経済においては、「パレートの法則」(自社が抱える顧客の2〔1〕割が利益の8〔9〕割をもたらす)がよく知られている。そのため、既存顧客との関係性を重視した顧客関係性マネジメント(Customer Relation Management)という考え方が広がっている。既存顧客1人ひとりのデータを元に最適化を行うことで、長期戦略の合理性を確保しようとするものである。

 

さらに別視点では、「ECサイトの進展」がある。ECサイトによるマーケティング活動のデータは瞬時かつ正確に企業に伝達・蓄積されるため、広告や販売促進などマーケティング戦略の効果測定が正確に行えるようになった。そのため、通常のビジネスにおいてもマーケティング支出に対する説明責任マーケティング効果測定の「可視化」が必要とされるようになる。これらを達成する前提となるのがビッグデータであり、これをビジネスへ活用することがマーケティング・リサーチである。

 

サンプリング*4

マーケティング・リサーチの目的は「調査対象とする集団の特性を知ること」である。対象となる集団は共通の特徴を持つ主体の集まりであることが前提であり、この集団を(ターゲット)母集団と呼ぶ。この集団の調査方法について、以下2つを取り上げる。

 

センサス

母集団の全メンバーを調査することを、センサス〔全数調査〕と呼ぶ。調査費用の観点から言えば合理的ではなく、実行不可能な場合がほとんどである。つまり、調査を断行しても非回答や不正回答などの誤差を含んでしまう可能性が高い。そのため、基本的には母集団を構成するメンバー数が少なく、かつ調査結果に誤りがあった際のコストが極端に大きい場合に適する調査方法である。

 

サンプリング

母集団の中から対象を限定して調査を行うことをサンプリングと呼ぶ。調査時間を節約し、1件あたりの調査を丁寧に行うことができる。母集団のサイズが大きくセンサスを行うには費用も時間も大きくなってしまう場合に有用な方法であると言える。この調査を行う場合には、標本統計量から定義される量によりパラメータ(母集団を特徴づける値)を推測することが必要となる。

 

(例)テレビ視聴率調査

ビデオリサーチ社は、関東地区での総世帯約1500万世帯の内、対象を600世帯にしぼってサンプリング調査を行い視聴率を計算している。この場合、総世帯の視聴率=パラメータであり、600世帯の視聴率=標本統計量となる。

 

サンプリング調査の誤差

サンプリングでは、前述のように調査対象を限定しており全メンバーは調査しないため一般的に誤差が含まれる。この誤差は標本誤差(=パラメータ-標本統計量)と非標本誤差に分類される。前者はパラメータと標本統計量の差(=パラメータ-標本統計量)であり、後者は測定誤差、誤った記録、非回答など様々な要因を含む。

 

サンプリング方法

サンプリングの方法には確率的サンプリング非確率的サンプリングがあるが、前者は母集団のメンバー全員が標本に選ばれる確率が等しくなるようサンプリングする方法である。一方後者は、ターゲットとなる母集団の特定が困難である場合等に便宜的に利用されることが多い。

 

質問紙作成のステップ*5

マーケティング・リサーチは、リサーチ結果をビジネスの意思決定に反映し、活用することで初めて価値をもち得る。ここで、活用するデータを取得する手段の1つが質問法であり、ここから取得したデータを解析しより良い意志決定につなげることが必要となる。そのためには、精度が高く必要十分な情報を含むデータを取得することが必要不可欠となってくる。ここで重要となるのが、情報を正しく捕捉できる質問と尺度で作成された質問紙である。以下、質問紙作成のステップを引用する*6

 

(1)マーケティング・リサーチで何を明らかにしたいのかを明確化

 (a)リサーチの目的を検討

 (b)目的に基づきリサーチ課題を具体的に決定

 (c)二次データや先行研究等からリサーチ課題に関する追加的情報を収集・調査に関 する仮説を精緻化

 

(2)必要となる情報を得るための質問を系統的に検討

 (a)(1)で設定した調査仮説の元で、具体的な質問を決定

 (b)各々の質問形式を決定

 

(3)質問の順番、ワーディングおよびレイアウトを決定

 (a)どのようなワーディングで質問するかを決定

 (b)典型的な被験者の理解力・知識・能力およびやる気を想定した上で質問が適切かどうかを評価

 (c)適切な順番でそれらの質問をレイアウト

 

(4)質問内容に関して不備や不明確な点がないかプレテスト・検討

 (a)全体として質問紙が妥当かどうか、測定したいものが測定できるかどうかをチェック

 (b)不十分な箇所、誤り等を修正

 

(5)質問紙を修正

 必要に応じて上記ステップを繰り返し、質問紙を精緻化し、完成させる

 

質問項目の作成においては消費者の態度の測定が必要となる。態度の構成要素は以下の3つである*7

 

(1)認知的成分:ある対象に対して消費者がもつ情報を表現。知名評価といった調査項目により測定する。

(2)感情的成分:ある対象に対する消費者の全体的な感情を要約。選好好意といった調査項目により測定する。

(3)行動的成分:ある対象に対する消費者の将来の行動の期待値として参照。購入意図再利用意図といった調査項目により測定する。

 

態度にもとづきマーケティング・リサーチを行う場合、仮説検証型と呼ばれるアプローチを行う。質問紙調査に先立って検証を行いたい事象に対して仮説を立て、それに基づき質問紙作成を行いデータを取得する。その後、取得したデータを用いて仮説を検証するというものである。

 

このとき、上記のような態度を測るためには態度に関する測定尺度を利用する必要がある。まず1点目に単項目尺度。2点目に多項目尺度。前者が態度を1つだけの項目で測定するのに対し、後者は態度を2つ以上の項目で測定する。3点目は連続尺度であり、1つだけの項目で態度を連続した値として捉えるものであるが前述の2つに比べて用いられることは少ない。

 

多項目尺度は、1つの質問項目で1つの構成概念を測定する単項目尺度や連続尺度とは異なるため、調査上の問題が生じる可能性が高まる。そのため、この尺度を用いる場合には適切な段階を踏み、慎重に検討していくことが重要となる。そこには信頼性(測定の精度)と妥当性(測定内容が意図したものとどれだけ一致しているか)が大きく関わってくる。

 

おわりに

本書は実際のソフトを用いて構成内容を追っていく形を取っていることもあり、より理解しやすかったように思う。とりわけ、質問紙作成のステップ部分は非常に丁寧に記されており大変勉強になった。とは言え、1度さらっただけでは理解し切れない部分も多かったため何度か読み返したい本であると感じた。

 

現代マーケティング・リサーチ -- 市場を読み解くデータ分析

現代マーケティング・リサーチ -- 市場を読み解くデータ分析

 

 

*1:参考:

http://mjin.doshisha.ac.jp/R/38/38.html

*2:参考:照井伸彦・佐藤忠彦『現代マーケティング・リサーチ―市場を読み解くデータ分析』(有斐閣、2013年)、pp.2~4。

*3:出典:同前、p.2。

*4:参考:同前、pp.38~42。

*5:参考:pp.62~80。

*6:参考:同前、p.63。

*7:参考:同前、pp.66~67。