ベン・パー『アテンション 「注目」で人を動かす7つの新戦略』(飛鳥新社、2016年)読了
ベン・パー『アテンション 「注目」で人を動かす7つの新戦略』(飛鳥新社、2016年)を読了した。情報過多時代の現代、「注目」が希少資源となるとし、「七つのトリガー」を提示して話が進んでゆく。
注目の三段階
「注目」には、以下の三段階が存在するという*1。
①即時
②短期
③長期
「即時の注目」とは、何かが起こった時に我々が自動的に反応するものである。これは三段階の中で最も得やすい注目であるが、飽くまで「点火」に過ぎない。
「短期の注目」とは「即時」の次段階であり、換言すれば「集中」することである。例えば、目新しいものや珍しいものに心惹かれているとそうなることが多い。しかし、これも飽くまで一時的な保管に過ぎない。
「長期の注目」とは「短期」の次段階であり、人や製品、アイデア等に長期に渡り人々の注目と関心を保たせることのできる能力である。それは、長期記憶に蓄えられた知識と経験に影響される。つまり、「よく知っていること」や「慣れ親しんでいること」がこの注目へと繋がる。
七つのトリガー
注目を生み出す七つのトリガーは、以下の通りである*2。
1.自動トリガー
→「色」や「シンボル」で人間の無意識に訴えかける
2.フレーミング・トリガー
→相手が受け入れやすくなるように「おなじみの感覚」を演出する
3.破壊トリガー
→「驚き」「単純さ」「重要性」のセットで畳み掛ける
4.報酬トリガー
→「相手が欲しがっているもの」を可視化する
5.評判トリガー
→「なにを言うか」よりも「誰が言うか」が肝心
6.ミステリー・トリガー
→「謎」「不確実性」「サスペンス」を提供し続ける
7.承認トリガー
→「認知」「評価」「共感」の三欲求を満たす
この中でも、とりわけ印象に残ったものをいくつか取り上げる。
フレーミング・トリガー
私たちは、生まれてから今まで生きてきて、様々な経験を積んできた。それにより自分だけの「判断基準」が養われている。これに基づき、アイデアやメッセージの入った枠組みに従うことを「フレーミング効果」と呼ぶ。
転じて、フレーミング・トリガーとは送りたいメッセージを相手が受け入れやすくなるよう、アイデアの見せ方を変えることである。しかしこれは予想よりも使いづらいものであり、大きな理由としては、人々は前述のような昔ながらの判断基準にしがみつく傾向にあるためである。著者はこれを「思考の惰性」と呼ぶ。
誰かの判断基準を変えて、注目を集めるということは非常に困難なことである。フレーミング・トリガーを用いるには、この思考の惰性にぶつかることを念頭に置かなければいけない。これを解決する糸口となるのが、「適応」と「議題設定」である。
「適応」とは、相手の判断基準を理解し、その判断基準に合うよう伝え方を変えることである。そのためには、以下の3つが必要となる*3
①相手の受容度を確かめる
→一番ストレスを感じるのはいつか。一番リラックスするのはいつか。
②相手の不安を理解する
→相手を自然に反発させるものは何か。(転じて、ほんの少しでも同意できる点を見つけると良い。)
③相手の文化的規範や伝統を知る
→何が相手を怒らせるか。何が相手を喜ばせるか。
「議題設定」とは、人々の頭の中にある特定の話題の重要性や顕著さを変えることである。反復と真実性錯覚効果(繰り返すことで嘘でも真実であると信じてしまうこと)が「議題設定」を強化し、人々の判断基準を変えて注目を集める強力なツールとなる。
「適応」と「議題設定」を駆使して、各々の判断基準をよく理解することがフレーミング・トリガーの鍵となる。
評判トリガー
「評判トリガー」とは、自分が信頼できる情報源を活用して、注目を向けるべきがどうかを判断するものである。私たちが注目を向ける際にいつも頼っている情報源とは、以下の3種類である*4
①専門家
→世に認められた知識と知恵で注目を集める。(ex)医者
②権威者
→権力と他人を服従させる力で注目を惹きつける。(ex)(学生に対する)教授
③大衆
→信頼や同調を呼び起こす。最も強力で最も扱いにくい。
評判を確立するのには時間がかかる。そこで、評判トリガーを活用して注目を獲得する近道がある。著者はこれを「信用の法則」と呼ぶ。この法則を用いるには、評判の人物、つまり「公認者」を交えることが必要となる。この公認者が実際に協力してくれる場合に限って、信用の法則はうまく発揮される。
承認トリガー
「承認トリガー」とは、人間の「承認欲求」に基づくものである。承認トリガーには、以下3つの要求が大きく関わってくる*5。
①認知
→自分と自分のメッセージが存在することへの同意
②評価
→自分という人間と、自分が行ってきた有意義な活動への肯定
③共感
→他者の要求と懸念を感じ取って思いやりを示す能力
3つに共通して、お互いがお互いの欲求を満たせばそれは強い繋がりとなる。つまり、一方が注目すればもう一方も注目を返すということである。著者はこれを「返礼の注目」と呼ぶ。
私たちは誰だって周りに認められたいという欲求を持っている。長期の注目は、上記の三欲求が満たされた時に最大となる。これが承認トリガーの力強さである。
おわりに
全体を通して、人間の本能や脳の仕組み等科学的な論拠が提示されており納得しながら読み進めることができた。やはり、7つの中で最も強力なのは「承認トリガー」なのではないか、と感じる。本書にも載っている通り、「承認」は人間特有の欲求である。誰もが口には出さないものの、誰かに評価されたいという欲求を持っている。そこに慎重にアプローチしていくことで、確実に長期の注目を得られるのではないだろうか。
「評判トリガー」も私の中では印象深いものであった。私は音楽が好きでよく聴いているが、あまり興味がないなと思って放っておいた曲が世間的に大ヒットし・・・挙句、周りの友人や家族までもが「良い!」と言い始めると、本当に「良いもの」のような気がしてきて最終的には大好きになっている。iTunes Storeで試聴をする時は、曲の横に表示されている「人気度」のバーを確認してから人気の高い曲を聴いていく。
なお、私の友人は所謂「流行りもの」を嫌っている。例えば、今大人気のドラマなどは絶対に見ないようである。とにかく、周りが持て囃しているものを見るのが嫌らしい。上記の通り私は全くの真逆であるので、評判トリガーに引っかかりやすいタイプなのでは、と感じる。一方友人に対して評判トリガーはあまり効果がないかもしれない。各トリガーは、場合によって慎重に使い分けていかなくてはならないと強く感じた。